解説
1.冕服
冕服(ミョンボク,면복)とは、国王の礼服の一、朝服(チョボク,조복)[註1]で、元旦の朝、即位、冬至、大きな祭礼、妃を迎えるなど祝賀の儀式に参列する際に着ます。
冕旒冠(ミョルリュグァン)を被るので冕服と言います。
日本で冕服は「べんぷく」と読み、広辞苑には「冕冠と礼服。大礼服」とあります。
朝鮮王朝や琉球王国は、中国と冊封および朝貢と呼ばれる君臣関係にあります。
朝鮮では政治はもとより服制に至るまで明を手本とし、琉球では国王代替わりの際に明皇帝より儀礼を執行する冊封使が派遣されるので、必然的に中華風になります。
朝鮮王朝は、太祖から九旒冠被り、冕服の九章服を着用。しかし一九世紀末の高宗が大韓帝国と改称してからは、中国皇帝と同格の十二旒冠を被り、冕服の十二章服となりました。
2.九章服
朝鮮国王の冕服は、九章紋(クジャンムン)が入るので九章服(クジャンボク,구장복)と言います。九章服は五行色を基調として、その構成は以下の通り。
- 中単(チュンダン,중단):則ち中(なか)の単(ひとえ)。白の無文絹で襟は直領。袖が広く、襟・裾、袖先に青の縁取り、襟には一一個の黻紋(プルムン/亞字紋)を金洛で施す。この上に以下を重ね着するので、最終的に裾しか見えない。
- 裳(サン,상):纁裳(フンサン,훈상)とも言い、膝の前後を覆う纁(薄い赤)の絹。三幅の前布と四幅の後布の七幅を、削幅(サクボク)と呼ばれる帯に垂らす。前面には四章紋を施す。1.中単と同様、最終的に裾しか見えない。[註2]
- 衣(ウィ,의):外衣。深青色や玄色(黒紫)などの絹で、袖先に服と同色の別布を当て五章紋を施す。
- 大帯(テデ):幅の広い無紋の帯を締める。7.綬と接続されている。
- 蔽膝(ペスル):前に垂らす、赤い腰巻エプロンのような布。
- 佩玉(ペオク):腰の左右に垂らす装飾品。
- 綬(ス):後綬(フス)とも。腰の後ろに垂らす布。
- 革帯(ヒョクテ,혁대):革製の帯。金の留め金が付く。また前部を玉で飾るカ。
- 襪(マル,말):ポソン(버선)とも言い、赤の足袋。形は日本の足袋より靴下に近い。
- 舃(ソク,석):儀礼用の靴。表は絹で、白の縁取りをし、二重底で弾力性がある。国王の舃は踵(かかと)に紐が付けられた。
- 圭(キュ,규):王族が胸の間に懐(いだ)く、縦に長い将棋の駒形の板。国王の場合は青玉(サファイア)で作られ、長さは九寸(約27cm)。
3.冕旒冠
冕服着用時には冕旒冠(ミョルリュグァン)を被ります。
4.メモ
…とまあ、構成要素の名称が難しい&聞きなれないこともあって、何が何だかだと思います。
よその国の風俗とあって韓服一般に考証が難しいですが、冕服は特に華やかなこともあり難儀を極め、完成までイラストを何度修正したかわかりません…。ともあれ韓国時代劇はもとより、琉球王国や儒教の礼などのご参考まで。
補註
- 朝鮮の礼服は、朝服の他に祭祀の祭服(チェボク,제복)、謝恩の公服(コンボク,공복)、執務用の常服(サンボク,상복)があるが、朝服が最も華やかである。
- 裳(サン)は三国時代まで女性専用であったが、朝鮮時代に至って国王以下文武官がスカートである裳を礼服に用いたが、前布と後布で分かれていた。
参考文献
- 金英淑(編著)・中村克哉(訳)『韓国服飾文化事典』(東方出版、2008年)