官制概略
- 皇帝
- 内閣(宰相及び大学士数名)
三権分立
六部(行政) | 都察院(監察) | 五軍都督府(軍事) | ||||
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吏部・戸部・札部・刑部・工部 | 兵部(中央軍事) | 中央 | 地方 | 都督府(数省) | 都指揮使司(一省) | 鎮守(辺境) |
- | 経略(※1) | - | - | - | ||
- | - | - | - | 提督(※2) | ||
尚書 | 左都御史/右都御史 | 総督・巡撫(※3) | 都督 | 都指揮使 | 総兵官 | |
左侍郎/右侍郎 | 左副都御史/右副都御史 | 総理 | 都督同知 | 都指揮同知 | 協守副総兵 | |
司郎中 | 左僉都御史/右僉都御史 | (以下略) | 都督僉事 | 都指揮僉事 | 分守参将 | |
員外郎 | 経歴司経歴 | 経歴 | 経歴・断事 | 遊撃将軍 |
※補註
- 経略:豊臣秀吉の朝鮮出兵など有事の際の臨時職。
- 提督:同上。
- 総督・巡撫(じゅんぶ):地方長官。総督と巡撫で督撫と略す。文官であるが軍事を兼ねることが多く、都御史の肩書を持つ。
その他官庁
- 大理寺(だいりじ):裁判所。大理寺卿―左右少卿―左右寺丞―左右寺正―寺副―評事
- 翰林院(かんりんいん):詔勅および国史編纂。学士―侍読学士・侍講学士―侍読・侍講―五経博士―典籍/史官修撰―編修―検討―庶吉士
- 国士監(こくしかん):大学。祭酒―司業―繩愆庁監丞―博士庁五経博士―六堂助教―学正
はじめに
実際の中国・明代の官位相当表は、上の表の十倍くらいのボリュームがあり非常に複雑です。そこで上の表は、文禄・慶長の役に登場してくる明の将軍や政治をスパッと理解するために要点を絞って制作しました。
内閣
内閣大学士
内閣は内閣大学士三~六名で組織され、内閣大学士(以下大学士と呼ぶ)の主席大学士は宰相または首輔と呼ばれます。
元々、大学士は皇帝の側近として秘書官的なもので、他の行政官庁とは切り離された独立機関でした。官位も当初は低かったのですが、次第に地位は向上していき政府機関になりました。
三権分立
行政:六部(りくぶ)
中央の行政機関は、吏(り)部は官僚人事、戸(こ)部は財政、札(らい)部は儀礼・科挙、刑(けい)部(は司法、工(こう)部は土木事業、兵(へい)部は軍事の、六つの官庁=六部で組織。六部は明の政治の心臓部、最も重要な機関です。
また六部は、古典「周礼」(しゅらい)以来の観念として、天地春夏秋冬に割り当てられます。吏部は天官、戸部は地官、礼部は春官、兵部は夏官、刑部は秋官、工部は冬官にあたります。例えば、韓愈(かんゆ:唐の文章家・詩人)は「刑部侍郎」でしたが、気どって「少秋官」といった文章があります。
監察:都察院(とさついん)
政務監察機関で諸官の違法行為を弾劾し、重大な罪を審議します。行政の六部と軍事の五軍都督府に、監察機関の都察院が加わることにより三権分立体制を確立していました。
また司法機関としては、刑部・大理寺と共に三法司と言います。
軍事:五軍都督府(ごぐんととくふ)
軍事機関は、六部の兵部(へいぶ)が皇帝の護衛隊を初めとした中央の軍事を司るに対し、五軍都督府はそれ以外の省や辺境地の軍事を司っていました。
五軍都督府の都督府(ととくふ)は数省以上、都指揮使司(としきしし)は一省、鎮守は辺境地域を管轄しています。
文官統制
文禄・慶長の役で活躍した明将らの経歴を調べていて気付いたのですが、軍事トップ「経略」は六部の兵部または都察院から、軍事ナンバー2「提督」は五軍都督府から任命しています。
これは明が文官統制(シビリアン‐コントロール)であり、行政六部と監察の都察院は、軍事の五軍都督府より上位であったことを端的に表している良い例だと言えるでしょう。
明朝
参考文献
- 京大東洋史辞典編纂会 編『新編 東洋史辞典』(東京創元社、1980年)
- 岸本美緒 ・宮嶋博史『世界の歴史12 明清と李朝の時代』(中央公論社、1998年)
- 吉川幸次郎『漢文の話』(筑摩書房、1986年)「第七 近世の叙事の文章としての「古文」碑伝状の文章 韓愈「女挐壙銘(じょだこうめい)」」194頁