解説
当素材は、時代考証を踏まえた四爪龍補です。作製にあたっては、朝鮮官制のごとく細かい決まりがあって思いがけず大苦戦しました。涙!
1.補(ポ)
李氏朝鮮時代の国王は、臣下と国政を論じ執務をとるとき常服(サンボク,상복)として、紺色の裏を打った深紅の袞龍袍(コルリョンポ)を着用します。
袞龍袍には補(ポ,보)と言って、胸と背、両肩の四ヵ所に金の糸で龍が刺繍されました。龍は想像上の動物で変貌自在の動きを見せ、天子や国王を象徴する動物と考えられました。
龍の爪が位を表し、中国の皇帝は、赤い裏を打った黄色の袞龍袍の同じ位置に五つの爪を持つ龍・五爪龍補(オジョリョンポ)を付けました。
これに対し朝鮮国王は、四爪龍補(サジョリョンポ)を付けました。龍は尾を左に正面を向いていますが、袍の両肩に付ける際は尾が外側になるようにします。
朝鮮において龍補(용보,ヨンポ)が用いられたのは、朝鮮時代の世宗(セジョン)二六年(1444)三月に明から授かった袞龍袍から始まります。
龍補の文様は時代により少しずつ異なり、19世紀半ばの哲宗(チョルチョン)までは四爪龍補が用いられ、次の大韓帝国初代皇帝・高宗(コジョン)以後に五爪竜(オジョンリョン)が用いられました。
補は輪郭が二四の菱で飾れています。背景は雲だけですが、理由は王妃の補のところで解説。宮中の繍房(スバン)という部署で女官によって製作されました。
2.龍の爪の数
以上を踏まえ、韓流時代劇(ドラマ、映画)をチェックすると、哲宗前の時代にも関わらず五爪龍補を身に着けている王様が多いです。
また、英祖(在位1724-1766年)の肖像(趙錫晋・青龍臣等画、昌徳宮所蔵)を見ると、五爪龍補の袞龍袍を着ています。但しこれは1990年の作品です。
個人的には一九世紀半ばまでは、四爪龍補とした方が無難な気がします。また国王の翼善冠の色や高さもよくわからないことが多いです。
参考文献
- 淑煥(監修・著)・原田美佳 他(著・訳)『朝鮮王朝の衣装と装身具』(淡交社、2007年)
- 金英淑(編著)・中村克哉(訳)『韓国服飾文化事典』(東方出版、2008年)
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