解説
1.九章紋
九章紋(クジャンムン,구장문)は、朝鮮国王の冕服(ミョンボク)の一つ九章服(クジャンボク,구장복)に刺繍された九つの紋です。[註1]
五章紋
冕服の外衣である衣(ウィ,의)に施す。
四章紋
冕服の前布の裳(サン,상)及び、膝の前に垂らす蔽膝(ペスル)に施す。
2.桃太郎の中にも
九章紋は一見、統一感のない象形の集合体のようにも見えますが、五行説に因るものでしょう。[註9]
日本の『桃太郎』に九章紋をいくつか見ることができます。きび(「粉米」)だんごを餌に「雉」と「猿」を引き連れ、「山」深いイメージのある鬼ヶ島へ武器(「斧」)を携え鬼退治。要するに『桃太郎』というのは五行説に基づく金気の精を集めたお目出度い話です。
いざ九章紋を描くとなると、色などに関して意外に考証が難しく、下記補註に根拠をメモしながら制作。本文も註だらけとなった次第です。
補註
- 一九世紀末の高宗が大韓帝国と改称してからは、中国皇帝と同格の十二旒冠を被り、冕服の十二章服。九章紋に日(イル,일)月(ウォル,월)星辰(ソンシン,성신 )が加わる。
- 日本の雉は首から腹にかけて青いが、韓国の雉・コウライキジは首の一部が青く腹は茶色っぽい。イラストはコウライキジを参照。
- 寅(トラ)と申(サル)は十二支で相克(五行木・金)関係。
- 『論語』公冶長18「梲(せつ)に藻(ゑが)けり」(うだちに藻を描いた)。天子の宗廟の装飾で、天子でもない者が梲に藻を描くは礼に背く。また『礼記』玉藻に「天子は大祭に玉藻(ぎょくそう/玉飾りの付いた王冠)と袞竜(こんりょう)の服を着る」とある。
- 日光輪王寺で毎年四月二日に行われる日光強飯式(ごうはんしき)が思い出される。
- 広辞苑によると黼は、黒と白の糸で背中あわせの斧の形をぬいとりした模様とある。万暦帝の肖像や朝鮮の書物(正祖國葬都監儀軌)などを見ると、青と白で黒は入っていないように見える。
- 亜の旧字・亞は古代人の住居の礎、また墓を上から見た形を象る。
- 黻は青と黒との糸で二つの弓字を背中合わせにした形を刺繍する、またその礼服の意。悪を取り除き善に向かう意が込められている[文献2]。蔽膝において黻は万暦帝の肖像を見ると青と黒(藍?)、朝鮮の書物(正祖國葬都監儀軌)を見ると黒と黄色。青は黼黻として、黒は五行の水気をイメージしてか。朝鮮の中単において黻は青の地に金烙。
- 九章紋を五行説によって分類すると、木は宗彛の寅(トラ)・藻、火は火、土は龍・山、金は雉(酉)・宗彛の申(サル)・粉米・黼(斧)、水は黻(亞字紋)となるカ。
参考文献
- 金英淑(編著)・中村克哉(訳)『韓国服飾文化事典』(東方出版、2008年)
- 吉野裕子『陰陽五行と日本の民俗』(人文書院、1983年)
- 小学館辞典編集部『現代漢語例解辞典』(小学館、1996年)
- 平岡武夫『全釈漢文大系 第一巻 論語』(集英社、1980年)
- 竹内照夫「礼記」『中国古典文学大系3』(平凡社、1970年)