解説
1.概要
佩玉(ペオク,패옥)は、朝鮮時代に国王や文官・武官が朝服や祭服を着た際に、両腰に垂らす装飾品。
様々な形の板状の玉が、概ね四段で連なっているのが特徴です。
日本で佩玉は「はいぎょく」と読み、広辞苑に「古代中国で、礼服着用の時などに腰におびた玉」とあります。
『論語』郷党06に「君子は(朝服の色である)紅と紫で普段着を作らない。…喪に服する時のほかは、いかなる場合にも玉を帯に佩(お)びる」とあります。
2.黃という字
黃(黄)の字体は、漢和辞典[文献3]に「腰に帯びる、おび玉の象形だろう」と書かれてあるのを、イラスト制作直前に偶然発見。
現存する朝鮮王朝の佩玉は白玉のほか、金色ないし黃色の装飾で連なるものがあります。イラストは漢和辞典の記述に基づき黃色で描いてみました。
時代により朝鮮王朝の佩玉の形態はかなり異なりますが、概ね以下のような構成です。
3.構成
最上段・珩
珩(ヒョン,형)は横にかけわたしたおびだま、佩玉の一の意。雲型で、下に紐三本付けて蠙珠(ビンジュ,진주/貝にできる真珠)を通す。
二段目・瑀
瑀(ウ,우)は玉に似た美しい石の意。四角型。
三段目・琚
琚(コ,거)は佩玉を組む玉の一つの意。角が丸い菱形。瑀とほぼ同じ四角型の場合もある。『詩経』衛風,木瓜に瓊琚(けいきょ)の言あり。
最下部・衝牙
衝牙(チュンア,충아)を直訳すると、勢いよくつきあたる大きく鋭い歯。珩とほぼ同じ雲型。
両脇
二段目・瑀の左右に小判型の玉花(オクァ,옥화)、三段目・琚の左右に半円型の璜(ファン,황)、最下部・衝牙の両脇に滴(しずく)型の玉滴(じょく,옥적)を付けます。
現存の佩玉を確認したところ、時代や位に関係なく、玉滴の位置はきほん最下部ですが、璜と玉花の順序が逆だったり、衝牙と玉滴の間に璜が入ったりするようです。
4.着け方
佩玉の上部には、大帯に取り付け垂らすための、金具が付いています。歩くたびに、両脇の飾りが中央の飾りに触れて音がなります。
5.詩経
『詩経』鄭風(ていふう)・女曰鶏鳴(じょえつけいめい)に「子(し)の之(これ)を来(きた)すを知らば、雑佩(ざつばい)以(もつ)て之(これ)に贈(おく)らん」
あなたがお招きする人ならば、飾りの佩(お)び物を贈りましょう、の意。
当詩の雑佩(ざつばい)については詳しいことがわからないようで、『毛伝(もうでん:毛詩詁訓伝)』に「珩・瑀・琚・衝牙の類」とあり、胡承珙(こしょうこう:清の官吏・学者)は佩びるものには玉も石も珠もあって、一類でないから、雑佩というのであるとする[文献4]。
6.メモ
…というわけで、佩玉を描くにあたっては頭を抱え込んでしまいました。(笑)
然しながら厳格に決まりがあって、それを実行するというよりは「例」に倣って宜しく計らう方が却ってまた、儒教の言うところの礼の実践かもしれないと思わないでもないです。
参考文献
- 金英淑(編著)・中村克哉(訳)『韓国服飾文化事典』(東方出版、2008年)
- 平岡武夫『全釈漢文大系 第一巻 論語』(集英社、1980年)「郷党」268-271頁
- 林大(監修)『現代漢語例解辞典』(小学館、1996年)
- 高田眞治『詩經 上 新装版 漢詩選1』(集英社、1996年)鄭風「女曰鶏鳴」322-325頁