解説
1.概要
冕旒冠(ミョルリュグァン,면류관)は、高麗時代から朝鮮時代まで、国王や王世子(皇太子)が国家の大きな祭祀や国王即位時に冕服(ミョンボク)を着た際に被った冠です。
日本では冕冠(べんかん)と呼ばれています。
2.天板
天板の幅 八寸(約25cm)、奥行き一尺六寸(約48cm)、前はやや曲線、後ろは直線の長方形、表は黒、裏には赤の絹が当ててあります。帽部の上に若干前傾に乗せられています。
3.冕旒
天板の前後には、珠すだれ状の冕旒(ミョルリュ,면류)を九本垂らします。長さ九寸(約27cm)、朱・白・蒼・黄・黒の五行の玉が順番に九つ通してあります。
中国皇帝は、冕旒を一二本垂らしました。皇帝にとって冕旒は、目の前と頭の後ろでぶらぶらと揺れて、気分を大変不快なものにします。その目的は、皇帝は必ず端正で壮重な態度を備えていなければならず、軽重に振る舞ってはならないことを悟らせるためでした。
4.三種の紐
充耳(じゅうじ)
充耳(チュンイ,충이)は耳玉。冠の両脇より耳まで垂れた玉石製の飾り。あるいは冠の両脇に黒い紐(玄紞(현담,ヒョンダム))を付けて耳栓にする綿をたらしました。その意は、礼を守ってつまらないことを聞かない。
『詩経』衛風・淇奥(きいく)は君子の徳を称えた詩で、切磋琢磨の出典。同詩に充耳琇瑩(じゅうじ しゅうえい/耳玉は光輝く石)会皮如星(かいべん ほしのごとし/皮の冠の縫い目には星のように宝石がちりばめられている)の言有り。
顎(あご)
帽部両脇下に付いた二本の赤紫の紐を顎の下で結び、残りを垂らします。
簪(かんざし)
帽部には金の簪が挿してあり、左に突き出した簪に一本の赤い紐を結び、これを顎の下を回して右の簪に結び、残った部分は垂らします。[註]
5.日本
日本は(教科書などで見たことがあろう)後醍醐天皇の肖像において、冕旒冠のような冠を見ることができます。然しながら、冕服ではなく日本の袍に袈裟を身に着けています。
補註
欧米の大学を卒業した者がアカデミックドレスに着る帽子には冕旒冠のような房が垂れているが、偶然だろうか。
参考文献
- 金英淑(編著)・中村克哉(訳)『韓国服飾文化事典』(東方出版、2008年)
- 黄仁宇『万暦十五年―1587「文明」の悲劇』(東方書店、1989年)
- 増野弘幸「詩経・淇奥」加藤敏・坂口三樹(共著)『研究資料漢文学〈第3巻〉詩(1)』(明治書院、2003年)27-33頁
- 高田眞治『詩經(上)新装版 漢詩選1』(集英社、1996年)