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筋兜
解説
室町(一六世紀)、刻銘「春田吉定作」、個人蔵「黒漆塗 三十六間 金覆輪 筋兜」(くろうるしぬり-さんじゅうろっけん-きんふくりん-すじかぶと)[文献1]を参考に描きました。
筋兜とは
当素材の筋兜(すじかぶと)とは、室町時代後期の代表的な兜の形態。疣(いぼ)状の突起がなく、いく本もの筋がよく目立ちます。
矧板
矧板(はぎいた)とは、鉢(兜の頭上部を覆う部分)の部品となる金属製の細長い板。当兜は矧板枚数(間数)が三六間で、多いものは六二間で定則化しました。
鋲頭(びょうがしら)は、矧板を留める大きな疣(いぼ)状の突起。星兜(ほしかぶと)は、鋲頭を装飾的に用いた兜で大鎧と一セットで用いれましたが、軽快な胴丸・腹巻が全盛になると凋落しました。
南北朝時代には、小さくなった鋲頭を叩きつぶして平らにした軽快な筋兜が誕生。北条氏康は一二間[文献2]、伊達政宗は六二間筋兜で現存。江戸時代には星兜より筋兜が一般的になりました。
阿古陀形
阿古陀形(あこだなり)とは、室町時代に南方から渡来した瓜(平たく丸い南瓜に似る、阿古陀瓜)を象った兜。鉢の前後が膨らみ、天辺は少し窪んでいます。室町時代に流行しましたが、室町後期に衰退。
榊原康政の筋兜(東京国立博物館蔵)は、肖像にも描かれているように阿古陀形と思われます。また当素材を厳密に言えば、三六間阿古陀形筋兜と言えるでしょう。
立物・前立
立物(たてもの)は建物ととも書き、自分を目立たせるため、また敵と味方を見分ける目印とするために兜につけた飾り。また立物は兜の、正面につける前立(まえだて)、両脇につける脇立(わきだて)、天辺につける頭立(ずたて)、後ろにつける後立(うしろだて)があります。
鍬形
前立の一、鍬形(くわがた)は、五月人形には必ずついている馴染みの深いU字型の飾り。日本の大鎧・胴丸・兜が生まれた平安時代中期より江戸時代に至るまで用いられました。
ところで江戸時代、鍬は農民が深耕用に使う第一の農具ですが、現代と同じくU字型ではありません。広辞苑に、前立鍬形の由来に「古代鍬の形に似ているからとも、慈姑(くわい)形の意ともいう」。
確かに古代鍬はU字型のようです。五行説の木火土金水の五気のうち、金気が最も強く、兵器武具、戦の象徴。一般に金属を意識しているため、由来は鍬形「虫」でも植物・慈姑でもなく、古代鍬が妥当だと思われます。
独鈷
独鈷(とっこ)は、密教の仏具・金剛杵(こんごうしょ)の一。もと古代インドの武器。転じて、煩悩を打ち破る智慧の象徴。鉄製・銅製の短い棒で、中央に握りの部分があります。当素材はもとより、上杉景勝の筋兜(佐藤博物館蔵)も鍬形に独鈷を付します。
覆輪(ふくりん)は、刀の鍔(つば)、鞍(くら)、茶碗など器物の縁を金属などで覆う装飾技法。当兜は筋兜に漆を塗り、金銅製の覆輪を廻(めぐ)らしています。
参考文献
- 「21 黒漆塗三十六間金覆輪筋兜」『合戦と武具』(石川県立歴史博物館 編集・発行、1998年)72頁
- 伊澤昭二(監修・文)「鉄地黒漆塗十二間筋兜 北条氏康所用_井澤家蔵」『図説・戦国甲冑集Ⅱ-決定版(歴史群像シリーズ)』(学研プラス、2005年)52頁
- 笹間良彦(監修)棟方武城(執筆)『すぐわかる 日本の甲冑・武具』(東京美術、2012年)