序文
航海の素人ならいざ知らず、戦争(いくさ)と貿易と海賊とは三位一体(さんみいったい)で分けられないのだ。ゲーテ『ファウスト』悲劇 第二部
はじめに
文禄・慶長の役において、日本水軍として九鬼嘉隆・藤堂高虎・脇坂安治らの他、村上水軍の雄である来島通之・通総兄弟も、救国の英雄・李舜臣率いる朝鮮水軍と死闘を繰り広げました。
これを機に村上水軍の歴史や戦い、その後について見てみましょう。
1.概要 三島村上氏
村上水軍は、中世後期、瀬戸内海地方で活躍した水軍(海賊衆)。能島(のしま)・来島(くるしま)・因島(いんのしま)の三氏からなり、主に船舶からの通行税を資金源とします。
三島村上氏 | 主家 | 大坂 木津川口海戦※ | 特徴 | |
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当主 | 対応 | |||
能島村上氏 | 特になし。 | 村上武吉(たけよし) | 毛利氏に加勢 | 独立性強く「土地」に興味なく、多くの国と繋がる。 |
来島村上氏 | 河野氏と関係が深い。 | 来島通総(みちふさ) | 織田氏に加勢 | 信長の次は秀吉に属して大名となり、脱海賊に成功。 |
因島村上氏 | 厳島の戦いから毛利氏。 | 村上吉充(よしみつ) | 毛利氏に加勢 | 早くから毛利氏に仕え、関ヶ原後は能島村上氏と共に萩藩毛利氏に仕える。 |
※大坂 木津川(きづがわ)口海戦の詳細は後編で解説。
2.地図
天正期の瀬戸内海周辺諸国
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3.海賊たちの王・河野氏
村上水軍は、能島(のしま)・来島(くるしま)・因島(いんのしま)の三氏からなり、この三氏は一致団結していたわけではなく、緩い同盟関係で繋がっていました。
然しながら彼らの精神的支柱は、共に河野氏にありました。河野氏は源平合戦の時に、河野通清(こうの-みちきよ)と通信(みちのぶ)父子が源氏方に味方して勢力をのばし、のちに伊予(愛媛県)の守護となりました。
一見、何ら海賊と関わりのない一族に見えますが、河野氏に伝わる『予章記』(よしょうき)という伝承の中で通清は、実に「海洋的」な人物として登場。『予章記』によれば、通清は大蛇に化けた明神と河野親清の女中とにできた子で、容姿は大男で美男でしたが、顔の両脇にうろこのようなものがありました。
河野氏が村上水軍(海賊衆)をどう束ねていたのか、来島村上氏以外はっきりしないのですが『予章記』の通清は、海賊たちの王としての河野氏であることを暗示であると言えるでしょう。それでは次頁から村上水軍の戦いと終焉を見てみましょう。