解説
1.ファロッとは
概要
ファロッ(활옷)は、高麗、朝鮮時代の王女の大礼服です。上流階級で婚礼服としても用いられました。
華衣(ファウィ)が訛って、ファロッと呼ばれているようです。今日では婚礼時に幣帛服(ペベクボク)[註1]として用いられています。
ファロッは、形はほぼ円衫と同じで、深紅の地に長寿や吉福を表す長生紋が刺繍してあるのが特徴。
紅色は赤系統として、五行説によると方位は南、季節は夏で、吉色とされ、魔除けとして呪術的意味があり、婚礼には欠かせない色でした。
形態
ファロッは、脇が開(あ)いていて、身頃は前二つ、後ろに一つで、後ろ身頃は前身頃より20cmほど長いです。襟は付けず、後ろ部分のみ縫って白いトンジョン(掛け襟)を付けています。
裏地は藍色とし、袖口には黄・紅・藍色の色縞・セクトン(색동)を付け、更に刺繍を入れた白い袖・汗衫(ハンサム,한삼)を付けます。
三回装(サムフェジャン)チョゴリ[註2]を着たうえにファロッをまといます。
文様
ファロッの深紅の地全体には、王妃の龍補や官吏の胸背にも見られる長生紋が刺繍されています。
ファロッ後身頃の文様は概ね、波状紋上に牡丹・蝶・双吉鳥、両袖には鳳凰、前裾には波状紋の上に子連れの鳳凰が向かい合い、牡丹も刺繍されています。
また、掛け襟の両横に連花を手にした童子と「二姓之合」「百福之源」、後襟にも各色の糸で同じ文字を入れることがあります。
2.帯
紅色の絹で作った鳳帯(ポンデ)を上腹部に締め、後ろに結んで垂らします。この帯は紅色で、七尺(約2m)余りあるので前から巻いて後ろで締め、先を長く垂らします。
3.スカート
唐衣でも履かれる、赤と青のスラン(膝襴,스란)チマを重ねて履きます。イラストの金色の装飾の帯状文様(スランダン(膝襴段))は、花紋と喜・冨・男・夛(多)の文字紋(ムンジャムン,문자문)であしらいました。男子誕生の願いが込めて「男」の文字を入れます。
4.頭の飾り
髪型はオヨモリ等にして、ピニョ(かんざし)は龍簪(ヨンジャム)を指します。
後ろにトトゥラク唐只(テンギ)、前にトゥリム唐只の装飾帯を垂らし、花冠を被ります。
5.メモ
私が朝鮮時代の婚礼服を初めて見たのは「イニョプの道」。華麗にも奇怪な恰好に衝撃を受けました。それ以来、韓国時代劇では必ずといっていい程、婚礼服を見かけます。何故なら韓国時代劇あるあるで、婚礼当日に事件は起こる!のです。おっと、ネタバレ注意だよ。
補註
- 幣帛(ペベク,폐백)とは、婚礼の六礼のうちの最後の儀式である親迎(チニョン)の後、新婦が舅姑に初めて挨拶するときに贈るもの。舅にはナツメ、姑には干し肉を贈るのが通例。
- 三回装チョゴリ(サムフェジャン-チョゴリ,삼회장저고리)とは、襟・脇・袖口・オッコルムが別色の上衣のこと。
参考文献
- 金英淑(編著)・中村克哉(訳)『韓国服飾文化事典』(東方出版、2008年)
- 張淑煥(監修・著)・原田美佳 他(著・訳)『朝鮮王朝の衣装と装身具』(淡交社、2007年)