解説
1.概要
ノリゲ(노리개)とは、女性のチョゴリ(上衣)のオッコルム(リボン)やスカートの裳(チマ,치마)の腰に下げた装飾具です。
イラストは文献(1)に掲載されている、一九世紀の銀大三作ノリゲを参考に描きました。虎の爪、香匣、蝶に梅花、竹、不老草など吉祥文を組み合わせた豪華なノリゲです。
2.歴史
ノリゲの歴史は、高麗(コリョ)時代に遡り、はじめ帯の下に下げていましたが、やがてチョゴリ(上衣)のオッコルム(リボン)の下にも下げるようになり、朝鮮時代にはそれが一般化しました。
3.用途、目的
ノリゲは韓服(ハンボク,한복)固有の美をひときわ高め、宮中をはじめとした上流階級から庶民まで広く用いられました。宮中儀式、家庭の慶事、簡単なものは普段でも下げました。ノリゲは装飾品であると共に、富貴多男、不老長寿など時代ごとの幸福を反映した女性たちの願いが込められています。
4.構成
ノリゲは、以下五つの要素から作られています。
1.ティドン(留め金)
ティドン(띠돈)は、ノリゲの最上部を成す部品で、ノリゲをオッコルム(チョゴリのリボン)に付ける部分です。三作ノリゲなど複数から出来ているノリゲの場合はそれをまとめる役割を果たします。
2.クンモク(上部の紐)
クンモク(끈목)は、ノリゲの上部にある紐で、ティドンと主体を繋げます。
3.メドゥプ(飾り結び)
メドゥプ(매듭)は、一本の紐(クンモク)から様々な形に結ぶ装飾技法。韓国の伝統工芸の一でその歴史は高麗時代に遡り、今日でも韓国では日常的に広く愛されています。
メドゥプは、ノリゲを多彩に彩る重要な要素で、その形はトンボ、蝶、蝉、蜂、梅花、菊花、苺、生姜、ひよこまで様々です。
4.主体(チュチェ)
下記種類参照のこと。
5.スル(房)
スル(房,술)は、チマ(スカート)の丈に合わせて長くし、固有の美しさを表現します。
5.種類
ノリゲの主体(チュチェ,주체)が一つのものを単作(タンジャク,단작)ノリゲ、三つのものを三作(サムジャク,삼작)ノリゲと言います。
単作ノリゲには、三作ノリゲを一つを切り離して用いるものと、最初から単体として作るものがあります。
三作ノリゲは、大きさによって三つに分類されます。大三作(テサムジャク,대삼작)は大きく華麗で主に宮中に、中三作(チュンサムジャク,중삼작)は宮中と上流階層、小三作(ソサムジャク,소삼작)は若い女性や子供が用いました。
色
三作ノリゲは紅、藍、黄をきほんに桃、薄緑、紫、水色などがあります。
素材
主体の素材は、金、銀、銅などの金属、白玉、翡翠玉、金剛石、琥珀などの玉石類、珊瑚、真珠、錦貝や色糸などがあります。
形
主体の形は、蝙蝠、蝶、蝉などの動物、ナス、唐辛子、葡萄などの植物、チュモニ(巾着)、斧、鈴、硯などの器物をかたどったもの、仏手、数珠など宗教系、および下記香匣などがあります。
香匣
香匣(ヒャンガプ,향갑)は、香を入れる小さな箱です。女性がノリゲに付けたり、部屋に下げてほのかな香りを漂わせました。香匣の形や材料、文様などに工夫を凝らしました。
香匣は婦徳(婦人の守るべき徳義)を表す実用品で、香を身に着けることにより女性らしさのPRにもなりました。香は薬用などにも用いられます。
参考文献
- 張淑煥(監修・著)・原田美佳 他(著・訳)『朝鮮王朝の衣装と装身具』(淡交社、2007年)
- 金英淑(編著)・中村克哉(訳)『韓国服飾文化事典』(東方出版、2008年)